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昔、敦賀に一人娘とその父母が住んでいた。娘に何度か夫を迎えたが、いずれも離縁となった。両親はあきらめ、家の後ろに堂を建て観音を安置して、娘を守ってくださるようにと祈った。まもなく父も母も死に、次第に 衣食にも窮するようになった。娘が観音に向かって助けたまえと願ううちに、夢の中に老いた僧が現れて「夫を見つけてやろう。明日ここに来る。その人の言う事に従え」と告げた。 翌日の夕方、馬の足音がして大勢の人がやって来た。一行は若狭へ向かう途中で、この家を宿として貸して欲しいという。見れば主人は30歳程の好男子である。従者など70人から80人ばかりいる。男は美濃の豪族の一人息子で、深く愛していた妻を亡くし、再婚話も断って一人身でいた。男は娘が話す様子など全てが、妻と生き写しであることに驚き喜んだ。 翌日、男たちは若狭へ向かい、従者20人ほどが敦賀に残ったが、これらの人に食べさせるものもなく困っていると、以前、父母に召し使われていた者の娘だと名乗る女が、思いがけなく訪ねてきた。わけを話すと、女はしばらくして食べ物や、馬の草を運んできた。 翌日の夕刻、若狭から一行が戻ると、その世話も全て女がしてくれた。男は、娘を明日美濃へ連れて帰るという。娘は助けてくれた女に何かお礼をと思い、ただ一着、紅の絹の袴があったので、自分は男が脱ぎ捨てた白い袴をはき、女に紅の袴を与えようとした。女は受け取ろうとしなかったが「思いがけず美濃に行く事になったから、これを形見に」と無理に取らせた。 出立のときに、観音にお参りすると、その肩に赤いものがかかっている。見ると前夜にあの女に与えた袴である。さては女と思ったのは観音が変じて助けて下さったのだと気づき、娘は身もだえして泣いた。男も事の次第を聞いて涙を流し、従者達もその話に胸をうたれた。その後、二人は美濃で仲むつまじく暮らし、子供が多く生まれた。敦賀にもしばしば通って観音の世話をし、手を尽くしてその女を捜したが、ついぞ見つからなかった。 (「今昔物語集」巻第十六から要約)関西電力鰍かさ探訪より |
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